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「AA-音楽批評家・間章-」撮影日誌 Vol.1

ユーロスペース・映画美学校製作
青山真治監督作品 「AA-音楽批評家・間章-」撮影日誌

Vol.1 2002 February 27-March 3
 
Text by 製作スタッフ
 
はじめに「AA-音楽批評家・間章(あいだ・あきら)-」は青山真治監督が映画美学校の上級過程である研究科の学生と制作しているドキュメンタリーである。70年代に活躍した夭折の音楽批評家・間章の思想と運動を検証しつつ、現代における音楽批評とは何かを追求しようと試みでもある。そしてこれはその制作過程の記録である。
 
2002.2.27
 
「AA~音楽批評家・間章~」ロケ1日目
明大前キッドアイラックホールにて『竹田賢一氏 演奏録音shoot!?』
 
「信じられないっ…。」
26日の夜、私は携帯電話をもったまま、途方に暮れた。
「竹田賢一さんは、25日も26日も録音に来ていません」と、キッドアイラックアートホール責任者の坂本さん。電話越しの彼も、やっぱり途方に暮れていた。
 
竹田賢一。
 
そう、今回「AA~音楽批評家・間章」のインタビュー撮影一発目は批評家・エレキ大正琴演奏家の竹田賢一氏である。その竹田氏が、エレキ大正琴のソロアルバムをここキッドアイラックホールにて収録する…かもしれないのだ。
 
生涯でたった一枚のソロアルバム。
 
この世には、数多くの竹田フリークのプロデューサーがいるそうだ。
「竹田さんソロ、出しませんか?」と企画を持ちかけると、竹田さんはにっこりして、「ああ、いいですねえ」と。その「ああ、いいですねえ」にウキウキするプロデューサーは、スタジオも機材も全部おさえて、さあ準備万端!竹田さんどうぞ~!と、実際の録音日を迎えるが、肝心の竹田さんは来ない…という現象が何度かあったそうな。だから、このキッドアイラックアートホールでの収録が実現すれば私達は幻の「エレキ大正琴ソロCD by竹田賢一」なるものを手にすることに。しかも、竹田さんご自身もこの収録には、かなり乗り気のご様子。
 
んで、私は図々しくも、この一期一会的収録風景を「撮影していいっすか?」と竹田さんにお願いしてみた。
「恥かしいけど、いいですよ」と、竹田さんはチョットはにかみながら、承諾。
 
…なのに、なのに、やっぱり来ていな~い!!収録予定日は2月25日、26日、27日で、青山ゼミとして撮影を許可されているのは最終日の27日。
「今夜の時点で、一曲の収録も実現できていない、つ~ことは、明日も来ないんでね~の~~~!」昨日の晩、私はマジでパニックに陥った。しかし、ホール責任者で今回のソロアルバムのプロデューサーでもある坂本さんは「仕方ない、明日はのんびり『奇跡』を待ちましょう」と。
 
で、本日27日。収録「最終日」が収録「初日」になるかもしれないし、「初日」にさえならないかもしれないが、とにかく我々青山ゼミのロケ隊は朝10時から、竹田の賢ちゃんを待つことに…。夕方になるか、夜になるか…半分諦めモードで、私は他のロケ隊の男の子をランチに行かせ、一人ホール内にあるロフトで眠ることにした…。
「おはようございます!」
なぬっ!?ホール従業員の方々の威勢の良い声。なんだ、なんだ、まさか…、どうせフェイントだろ…、もう一眠り…、と、ぼんやりとした視界の先には、ヒゲだ、ヒゲ、ヒゲ、いやいや、長い、長い、長いヒゲだ…竹田賢一だ!
 
慌ててロケ隊に連絡し、すぐに我々は録音風景の撮影体制に突入。そして、私達ロケ隊のために計3曲の演奏録音をしてくださった。エレキ大正琴に向う竹田賢一は、考えながら、しかし、どこか祈るように弦をはじく。
「ビヨン、ビヨンビヨン、ビヨ~ん」(あの音を、文字にできんのが残念です)
なんか、色っぽい。
エレキ大正琴を弾いている竹田賢一も色っぽいし、竹田賢一に弾かれているエレキ大正琴も、この空間も時間も妙に色っぽい。『奇跡』というのは、かくもさり気なく色っぽく訪れるものなのか。そんな、ショウもないことを考える夕暮れ時、ロケ隊とともに私はキッドアイラックをあとにした。
あっ、そういえば今日、クランクインだったっけ?
(木戸亜由美/制作)
 
2002.2.28 
今日はNEWTOKYO LIFESTYLE ROPPONGI THINKZONE で行われた「ポステク・サミット2002」の取材。そもそもこのイベントは久保田晃弘監修の「ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック」(大村書店)と佐々木敦著「テクノイズ・マテリアリズム」(青土社)刊行記念シンポジウム&ライブで、今回のドキュメンタリーのインタビュー対象者である佐々木敦氏と大友良英氏らのトークショー、そして大友氏のライブが行われるため監督が是非撮影したいということでこのイベントの協賛者で今回のドキュメンタリーでは大変お世話になっている青土社の水木さんに頼んで取材させてもらう運びとなった。大友さんが「リハーサルから撮ってみては?」と申し出て下さったので午後4時に現場に行ったものの会場はセッティングの最中。監督は大友さんがいらしたらいつでも撮影できるようにとセッティングを早くするように、また手の空いた者は会場の観客用の椅子を並べるのを手伝えと指示。ああ、このような初歩的なことを監督に言わせてしまった。また先方への問い合わせに関してツメが甘いのを注意される。自分の段取りの悪さを反省。そうこうするうちに大友さんが会場に現れた。しかしリハーサルはなかなか始まらない。まあゆっくり準備でもと思った矢先にDATが上手く機能せずマイクの音が拾えないというトラブルに見舞われる。美学校の山口さんに電話をして質問するもなぜ機能しないのかがわからない。もう一度セッティングし直したり、『すでに年老いた彼女のすべてについては語らぬために』で録音魂を見せつけたE君が見てもわからない。途方に暮れてしまったものの撮影間近になってどうにかマイクが機能するようになった。G君曰く「心をこめてラインをつないだ」ということだが未だに原因は不明である。
 
大友さんの音入りリハまで少しばかり時間がある。とりあえず長丁場だから2班に分かれて食事をとろうということで先発隊が先にマックに行く。監督は佐々木敦氏と談笑中だったので会場に残してきたのだが、10分ほどの慌しい軽食をして会場に戻ると監督がいない。先に食事に行った私たちのことを「ずるい」と言って自分も食事に行ってしまったんだとか。そうこうするうちに大友さんのリハーサルが始まり、監督不在のままカメラを回す。
 
そしていよいよ開場。3月5日にインタビュー予定の副島輝人氏、そしてこのドキュメンタリーのインタビュアー大里俊晴氏らがお見えになり、今後の予定などを打ち合わせをする。そして何時の間にか始まっていた久保田晃弘氏の演奏の後で今回のメーンイベントであるトークショーに。ベルリンの現代芸術のイベントに参加していた佐々木敦氏の報告から始まり、そして現代音楽の状況紹介に終始して終わった。クリストフ・シャルル氏の演奏の後、間髪入れずに大友さんの演奏が始まった。他のミュージシャンたちがMacによる映像と音のインスタレーション的な出し物を繰り広げる中で自らを「ジャズたたき上げ」と称する大友さんはターンテーブルにシンバルやギターの弦などを取り付けた装置で大音響のパフォーマンスを展開し、会場を圧巻。その炸裂するノイズは睡魔に襲われていた私をすっかり覚醒してくれた。終了後、聴衆は大友さんの装置を取り囲んでまじまじと覗いていた。我々は撤収開始。しかし美学校は既に閉まっていて機材が返却できない。仕方なく我々は機材を分担して持ち帰ることに。我々の段取りの悪さ、そしてズッコケぶりが露になった撮影だった。反省点は山ほどある。進歩しなくては・・・。
(黒澤美穂/制作)
 
2002.3.2
 
「AA」の実質上の撮影初日は、音楽批評家、演奏家の竹田賢一氏のインタビューの撮影で開始する予定であった。監督の青山真治氏、インタビュアーの大里俊晴氏、ゲストアドバイザーの安井豊氏、映画美学校の研究生であるスタッフ一同は、皆、撮影の場所であるキッド・アイラック・ホールに到着するが、当の竹田氏が到着しない。そんな中、安井氏に「ミュージシャン・タイム」なる時空の存在を知らされる。安井氏によれば、一部のミュージシャンは、集団の活動にとって一般的に必然とされる同時性の組織化とは、無縁の時空に生息し、竹田氏もその時空の住人らしい。そんな安井氏の発言を実証するかのように、竹田氏は現れずにインタビュー開始予定の午後4時も過ぎていったが、生産性とは無縁の緊張感が場を支配することはなかった。竹田氏の到着を待つ間、現代アイドル論が語られたり、ホールの外観が撮られたり、あるいは竹田氏本人が語られる対象になったりして、一つの話題が場を支配することはないまま、青山真治監督が出した撤収時刻の午後6時はあっさり、訪れたのだった。
私としては、自分の作成した竹田賢一氏への質問が、現実に試されるということもあって、緊張をもって今日を迎えたのだったが、撮影初日は、あっけらかんと終わった。竹田賢一氏のインタビューは明日に持ち越されることになり、大里氏は、明日はギターを持ってくることを宣言した。
(木田貴裕/資料)
 
2002.3.3
 
昨日に引き続き13:30にキッドアイラックホールへ。既に何人かが竹田賢一さんが来るのではないかと早めに会場に駆けつけていた。その中には昨日の深夜「今日録音をお願い」と我々につかまってしまったEくんもいた。
「今日は休みたかったんだけどな」とボソッと本音を。そうは言いつつもマイクのセッティングを綿密に行っている彼はやっぱり頼もしい。
 
やがて監督、大里俊晴氏、安井豊氏もやって来る。竹田さんとは連絡が取れない。大里さんは昨日の宣言通りギターを持参してきた。
「もし竹田さんが来なかったら俺がソロアルバムを作ろうかな」と冗談まじりに言う大里氏。
「じゃあ、俺たちは大里さんのプロモでも作るか」と監督。
「じゃあ安井さんがライナーノーツを書くってのはどうです?」と現場の照明を確認しながら雑談に終始。そんな中でキッド・アイラック・ホールの坂本さんに竹田さんから連絡があったという知らせが入る。今、車で向かっていてあと1時間ほどで着くとのこと。朗報に疲れ気味のスタッフの顔も輝く。大里さんはせっかくギターを持ってきたのでアコースティックギターで「枯葉」などのメロディーをつまびく。
 
そして竹田さんがいよいよ到着。
「風邪をひいてしまいまして皆さんをお待たせしてすいません」とおっしゃる竹田氏。すぐに撮影に入る。まず竹田氏と間章、そして撮影場所のキッドアイラックホールとのなれそめから始まり、竹田さんのミュージシャンとしての経歴に触れながら、やがて今回のドキュメンタリーのメインテーマである間章の批評に関する話題になる。竹田氏は地上のモノを使って物事を対象化するのに対し、間章はこの世を超越したものを使って対象化すると説明する。まだ頭痛がするとおっしゃっていた竹田氏だったが彼から発せられる言葉は明晰そのものだ。インタビューに関してはつつがなく進み、2時間と少しで無事終了。竹田賢一さんは引き続きエレキ大正琴のソロアルバムのレコーディングに入り、私たちは現場を後にする。旅は始まったばかりである。
(黒澤美穂/制作)
 

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