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2004年 boid日記 1月

Text by 樋口泰人

1月24日(土)

怒涛の1週間が終わる。
ようやくベルリン映画祭用の日本映画カタログは校了。
しかしこれまたようやく始まった『AA』編集の日々とユニジャパン発行の日本映画の年鑑、およびそのホームページ用データベース作りの作業が重なり、一息入れる時間がない。
左目にできた物貰いらしきものは何とか治り、世界の滲みが消えただけでもまあよかった。
『AA』の方は、何しろ完成後の推定上映時間6時間になろうかというものだから、まだまだどうなるかわからない。
とりあえずあれこれ並べていってはいるものの、最後の仕上げが思いやられる。
全体を見直すだけで6時間かかってしまうのだ。
うーん。
だが、インタビューに答えるそれぞれの人々の話は本当に面白い。
今は皆違うことを考えていたり別々のことをやってはいるが、それは一方で、彼らをそのように変えていく力を音楽が持っていることの証でもあり、その意味で彼らの違いはまったくOKなのだ。

本日は夜、吉祥寺バウスシアターへ、レイトショー上映され始めた(本日が初日)の『イヤー・オブ・ザ・ホース』を見に行く。
春にバウスで行う予定の「爆音上映」のための準備と打ち合わせである。
通常の映画用のセッティングではなく、音楽用のPAを使っての上映。
かつて劇場で見たときと違って音は荒々しく、低音がずんずんと腹に響く。
「Tonight's the night」のアンサンブルが思い切りかっこよく、目を見張る。
その前後だったか、70年代のツアーの写真が何枚か映って、その中に若きジャック・ニッチェの姿も見え、思わず涙。
ただ、最後の「ライク・ア・ハリケーン」のフィードバックの音はかなり抑えられていて、ボーカル・メインのバランスになっていたのが残念。
ここの渦巻きが肝だと思うのだが。
だが、これはフィルムに焼き付けられた段階で抑えられているものと思われるので、「爆音上映」の際にどれだけこれが渦巻くか、かなり難しいかもしれない。
もちろんこの不満は、音楽用のセッティングになっていたからこそ感じるもので、通常の映画館のスピーカーではその手前までだから、ジャームッシュもそのことを分かった上でのミキシングなのだろう。
とりあえずバウスの担当の西村さんには真ん中からの音の更なる充実を要求。
西村さんの話では、上映する映画にあわせていろんなセッティングをして上映しているのだが、誘ってもなかなか配給会社の人が見に来てくれないとのこと。
確かに一つ一つの劇場に付き合ってはいられないかもしれないが、しかしその時間は無駄ではないと思う。
とにかく『イヤー・オブ・ザ・ホース』は、1月30日まで夜8時30分からの1回だけの上映。
ビデオや映画館とは違う音が聴けるので、時間がある方は是非行って確かめて欲しい。
春の「爆音上映」では、その1.5倍くらいの音でやる予定。
ホントはモノラルでやりたいんだけどねえ。
ただ、途中でドラムの音がグルグルと回るのが、かなりいいのでさすがにそれまで消してしまうのは忍びないし・・・

1月17日(土)

相変わらず目くるめく日が続く。
19日に入稿だというのに昨日までページさえ決まらない状態で、ベルリン映画祭用の日本映画カタログ作りが行われている。
ようやくページは確定したものの、今日になってもまだ、2ページほどの原稿待ちがあるのだ。
しかも今年は映画祭のマーケット出品作品のカタログ掲載作が昨年の倍ほどになり、当然ページ数も増えている。
年末からあれこれ準備していたおかげでまだ何とかなっているが、すでに耳鳴りが始まり、差し歯の付け根は腫れ、それをかばって食事をしていたら舌の奥をかんでそこもまた腫れあがりという、首から上をできれば挿げ替えたい気分である。
前回の日記でこの時期は体調が悪くなると書いたのが祟ったか。
だがここに来て一気に寒くなり、ちょっと気合が入る。
送られてきた青山の日記はいつになく安定度が高く、これならこの忙しさに任せてズルズルとサボっていられるなあと一安心。
しかもさすがに勘のいい青山は、ドクター・ミックス&ザ・リミックスと灰野さんの発言とを同時に聞いている。
私も当然そのことを意識して、日記でもメールでもあのアルバムをプッシュしたのだった。
ロックンロールの変奏は今尚十分に可能だ。
マーク・ボランのあのビブラートがいかにエルヴィスの歌声から影響されているか、そのことが今もその変奏への道をつないでいるはずだ。
中原君から紹介されたMichael Yonkers Band のアルバムが素晴らしい。
68年くらいに作られたもので、当時のアメリカのガレージ・ロックはそれなりに良くても、いくつかのものを除いてあまりに音と身体とが近すぎて基本的に1度聴くだけでうんざりしてしまうものが多いのだが、このバンドの音は明らかにそこにワン・クッションある。
つまり、ロックンロールの「アレンジ」が行われているのである。
かつてはニルヴァーナを売り出したサブ・ポップは、時々このような素晴らしいアルバムを発掘してくれる。
しかし、青山と連絡が取れない。
明日は『AA』の編集作業の予定で、昨日から電話やメールで連絡を入れているのだが返事が返ってこない。
日記の原稿が届いたのが昨日の明け方で、そのメールにはジェームズ・フォーリーの試写に行く予定とのメッセージがあったのだが、夕方以降も携帯は留守電になったまま。
またもや電源を切りっぱなしになっているのか・・・
しかし、メールにも返信がないということは、熱でも出してぶっ倒れているか。
日記の安定感は、不吉な兆しだったということなのかもしれない。

ああ、あと、ケーブルのミュージック・チャンネルでスティングの特集をやっていて、新しいアルバムのクリップをあれこれ流していた。
最近は全然聞いていなかったのだが、なにやらえらく迫力のある、かつてのティナ・ターナーのような黒人女性ボーカリストとデュエットをしている。
いったいあれは誰かと見ていたら、メアリー・J・ブライジだった。
まともに歌うと、彼女はこんなになるのか・・・
それが終わると、今度はシェブ・マミとのデュエット。
シェブ・マミが日本でも注目されたのはもう10年以上も前のことだが、相変わらずライの目くるめくリズム。
いずれにしてもスティングの方が添え物な感触さえ受ける。
例えば、かつてのピーター・ゲイブリエルなら、スティーヴ・リリーホワイトと一緒になってもう少し自分のフィールドに、外部のリズムや音をひきつけたはずなのだが、スティングの場合は自らをそれらの外側の音に寄り添わせていく。
だから、どちらかというとスティングの方がある種の謙虚さと倫理観を持ってそれらの音に相対しているようにも聴こえるのだが、どうもそうでもないところが怪しくもあり、スティングの才能でもあるのだろう。

1月9日(金)

謹賀新年と言うにはちょっと気恥ずかしくなり始めたが、まあ、今年最初の日記ゆえ、とりあえず謹賀新年、今年も宜しく。
とはいえ年末からバタバタと働いたり、パパをしたりしていて、毎年のことだがこの時期はまったくのんびりできない。
休みなどなければどんなに楽かといつも思うのだが、どうにもならず、基本的に1月末から2月にかけて体調を崩す。
今年はどうなるだろう。

年末から編集作業をやっていた黒沢さんの短編が、完成した。
編集完成版を色調整して、加工画像を加えたものを再度我が家のパソコンに入れて、音の調整をやったのだが、またもやデータのやり取りでいくつかのトラブルがあり、簡単には行かなかった。
普段からこのようなことをやりつけていればもうちょっとスムーズに行ったとは思うものの、後の祭り。
とにかくまあ、NGとなるはずのノイズや風の音をついバリバリ使ってしまい、結構な轟音短編となった。
一応宣伝をしておくと、これは2月発売の雑誌「インビテーション」の付録のDVDに収録される。
というか、この短編だけが収録されたDVDが、「インビテーション」の付録としてつけられるのだ。
雑誌の値段は据え置きということだから、お得な買い物ではないだろうか。
できればボリュームを普段より大きめにして見てもらえたらと思う。

本日は青山の『AA』の方の編集作業だったのだが、同じ場所で行っている稲川さんの作品の編集が長引いていて、こちらの作業は中止。
今年に入って試写にも行っていなかったので、さすがにそろそろ何かに行った方がいいかと思い物色するが見たかったものは本日の試写はなし。
で、今年最初の試写がコーエン兄弟というのもどうだろうと今ひとつ釈然としないままUIPの試写室に行ったのだが、いきなり思い切りの人ごみ。
すでに満員で、入れず。
うーん、今年も相変わらずである。
そういえば、元旦の夜から、私は久々にとんでもないものを見た。
私が見る「とんでもないもの」と言えば、私を知る人はみんな知っている「とんでもないもの」である。
いつもは悪さをして私をいきなり恐怖の渦に突き落とすのだが、今回のものはちょっと違った。
じわじわとくる。
おかげでおそらく数分間、私はそれと額を突き合わせ見つめあう羽目になった。
その前後のあれこれもあるが、まあそれはそれ。
なにやら波乱含みの年明けである。

この間に買ったCDでは、ミッシー・エリオット、apani、アウトキャストが気に入っている。
ティンバランドのアルバムの低音の処理にも驚いたが、ミッシー・エリオットでやっているほうがより過激。
アウトキャストは何も2枚組みにしなくてもと思うが・・・
ただ、アウトキャストがこれほど洗練に向かうとは思わなかったので少し驚いた。
部分的に取り出せば、カーティス・メイフィールドや後期スライ・ストーンかとも思えるほどだ。
あと、安井君から借りたJAY-Zの新作。
前作ではほとんどT.REXの「トゥウェンティ・センチュリー・ボーイ」ではないかというような女性コーラスが聞こえてきたのだが、今回はいきなり冒頭から「フューチュアリスティック・ドラゴン」な展開で、笑う。
本当に引退するのだろうか。
それからドクター・ミックス&ザ・リミックスのアルバムがついに再発になった。
赤地に黄色の文字で「WALL OF NOISE」と書いてあるやつ。
やはりこういう音から逃れることはできないなあと、涙する。