
boid 日記 2006年11月
text by 樋口泰人
11月29日(水)
13年前に倒れた時、しばらく通っていた漢方薬局に行く。
西洋医学では、一応メニエルの症状は安定、という診断になったもののやはりちょっと無理するとすぐにクラクラするので、ここはひとつ漢方の力を、という思惑。
いずれにしても西洋医学では、メニエルは対処療法しか処方がないのであった。
2日ほど前、安井君から心療内科を勧められ、どちらにしようか迷ったのだが、吉祥寺の方が近いというのとかつて通っていた安心感から、まずは漢方に行ってみてダメだったら心療内科に、という決断をしたのだった。
漢方にもメニエル用の処方があり、それをベースに患者の体質に合わせてあれこれブレンドしていくのだそうだ。
細かい問診や舌の触診によって、薬が決められる。
目の具合が悪いのも、メニエルと大いに関連しているのだそうだ。
1週間続けると、その処方が患者に合っているかどうかはだいたい判断できるとのこと。
しかしまあ、分かってはいたが、1週間分の薬代はそれなりな値段で、つい今後の生活を考える。
毎日煎じて飲むのも結構面倒くさいのだが、それが面倒で辞めてしまう頃にはだいたい良くなりかけている、というのが、前回のパターンではあった。
夜、ピクシーズのドキュメンタリーのパンフレットに収録する、フランク・ブラックによるレイ・ブラッドベリへのインタビュー、というのを読む。
フランク・ブラックがブラッドベリから大いに影響を受けて、曲作りにもそれが反映されている、というのは有名だが、さすがにそのブラッドベリにインタビューとなると、フランク・ブラックも相当舞い上がっている。
しかも、質問は、火星への移住についてだとか、ロサンゼルスの未来についてだとか、ブラッドベリのファン丸出しの質問。
だが、これが面白いのだ。
ピクシーズの音楽とはまったく関係ないことを話していても、それが確かに音楽に繋がっていることが次第に分かってくる。
彼らが音楽を始め、一度離ればなれになり、そしてまた活動を始めるその緩やかな時間の流れとそれぞれの関係の微妙な変化が作り出す運動の広がりが、その会話の中に見えてくるのだ。
こういったインタビューは、日本の音楽誌には絶対に掲載されないだろう。
お楽しみに。
明日はいよいよ『AA+』のCDが出来上がってくる。
11月28日(火)
いろんなことがバタバタと動き始めていて、ついていくのが精一杯である。
一方で、身体の回復は、本当にゆっくりとしたペース。
その早さと遅さの狭間で、どうにもなかなかバランスがとれない。
まあ、とろうとしない方が身のためだとも思う。
私の身体のこともさることながら、今度は梅本さんが大変、という知らせも入ってくる。
ごく簡単な手術のため2日ほど入院、ということだったのだが、術後の経過が悪く、何度3度目の入院をしてしまったと。
一体もう、あの頑強な梅本さんでさえこのような状態になるとは・・・
金曜日に、様子をうかがいに訪ねてみることにする。
それから梅本さんの本が出版された。
nobody などに掲載されていた建築に関する原稿を集めた、『建築を読む』というタイトルの本。
建築に関してはまるで知識のない私だが、この本のために書き下ろされたプロローグ「都市の青春」という原稿を読み、今、何故この本が出版されたのか、納得がいく。
おそらくこの原稿は、黒沢さんの『叫』を観なかったら書かれなかったのではないか?
そしてこの本もまた、あの映画の中で、液状化した土地の中から現れて消えていく亡霊たちのように、「日常」の裂け目からふと現れて、かつてあったこと、なかったこと、あり得たこと、あり得たかも知れない妄想などなどを届ける回路のひとつとして、我々の「日常」に現れたものだろう。
したがって、当然のことなのだが、建築について記されたこの本は、映画についての本でもあり、映画そのものでもある。
11月23日(木)
ついにboidサイトがリニューアル。
本当は9月にはこうなっているはずだったのだが、私の体調悪化でここまで延びてしまった。
結局私はほとんど何も出来ず、多くの人々のお世話になった。
こういったことを一人でやろうと思っていたこと自体が大間違いだったと、反省。
お世話になった方々、本当にありがとう。
いよいよboidの具体的な作業がどんどん私の手から離れていって、何かわたしの知らないことがどこかでboidの仕業として勝手に起こってくれそうな気配もあり、嬉しい限りである。
このサイトも、多くの人が適当に出入りできるような形に、していきたいと思う。
一昨日、『ハート・オブ・ゴールド』のことを書いたが、実はもう1本、念願の映画が上映される。
オリヴァー・ストーンがカストロにインタビューしたドキュメンタリーである。
3年くらい前のベルリン映画祭での上映時から気になっていて、この日記だけではなく、雑誌の連載などでも何度か書いたのだが、12月にユーロスペースにて行われる「キューバ映画祭」にて上映が決まった。
どうやら来年、ロードショーもされるらしい。
しかし、本当に、こういうことは根気がいるなあ・・
詳細はこちら
11月21日(火)
朝から朗報。
アメリカの大貫さん。
『ハート・オブ・ゴールド』の日本上映の件で、ニールさんがパラマウントのプロデューサーに連絡を取ってくれたとのこと。
実は、日本側からも、某配給会社がエージェントを通してパラマウントに連絡を取っており、これで、双方が繋がった。
あとは権利料その他の金額折り合うかどうかだけ、というところまで来た。
ニール・ヤング・ファンの皆さん、もうちょっとです。
というわけで、朝から、結構テンションが上がってしまい、あれこれ仕事をしてしまったら、夜はまた、頭がクラクラしてきたので、この辺で。
11月20日(月)
遊んでいると普通に暮らせて、パソコン仕事を始めるとが前調子悪くなる、という状態が続き、仕方ないので、とにかくパソコン作業や、集中してやらねばならないことは放棄。
皆さんにご迷惑をかけている真っ最中である。
でもまあ、こればかりはどうしようもない。
パソコンを使って出来るのは、メールへの返信やら、こういった日記みたいに、さっさと済ませられるものくらい。
したがって、せっかく自宅療養中なのにDVDも見ることができず、何とも情けない。
せっかくのいいチャンスなのにねえ・・・
本日は、やはり病気で自宅療養中の田畑裕美さんの宅に見舞いがてら遊びに行く。
いい歳した大人が(というか、もういい歳だから、ということなのだが)、お茶を飲みながら昼から世間話。
病気の二人の会話なので、どうしても、病気のことや健康のことがメインの話題になる。
これはもう、完全にお年寄りの会話である。
人はこうやって歳をとっていくのだろうか。
田畑さんは私よりずっと重い病気だが、もしかすると私より元気じゃないかというくらいで、試写にも行き始めたし、ライヴにも行ってきたとのこと。
どちらが見舞われているのかよく分からない状態。
田畑さんは、左肘を複雑骨折して入院中の柳下毅一郎君の見舞いにも行ってきたのだそうだ。
みんな、病気やら怪我やら、一体どうしたことか。
老後に向けてのリセット期間、ということかもしれない。
11月12日(日)
『AA』のための本、『間章クロニクル』の原稿整理のため、昨日からパソコンに貼り付き通しで、せっかく持ち直してきた体調が逆戻り。
すべての予定をキャンセル。
私をこんな風な状態に追い込まないための若者たちの奮闘を望む。
しかし、これは全然終わらない。
さすがにこのために倒れたくはないので、寝る時間になったら寝る。
1月からの復帰を、1ヶ月遅らせようかと、本気で考え始める。
いずれにしても、しばらくどこかに隠れなければ、治るものも治らない。
隠れたふりをして、こっそり東京で遊んでいる、というのが一番望ましいのだが・・・
11月10日(金)
この間、更新が滞っていたのは再び体調を崩したのではなく、忙しかったから。
公的には「完全休養」で、新しい仕事はすべて断っているのだが、継続中のプロジェクトだけで7,8個あって、いろんな人に手伝ってもらいながら進めている。
その連絡だけでも、毎日あれこれ、あっという間に時間が過ぎてしまうのである。
基本的に、夜は仕事をしないことにして、これまでの生活に比べたらかなりの早寝早起き生活をしているために、とりあえず、何とか体調は回復中。
でもさすがに、10時くらいから7時くらいまで、ほぼ目一杯働き通し、というのは、「完全休養」とは言えないねえ・・・
というか、単にちゃんと働いている。
しかもまだ、音楽も聴けず、映画も観られない。
通り過ぎていく音や映像は大丈夫なのだが、これまでのように身体の中に入れようとすると、まだ拒否反応が起こるのだ。
まあ、こちらは、身体が反応し始めたところで始めるしかない。
これに関しては、あまり気にしていない。
2日ほど前、1ヶ月半ぶりくらいで、新宿を超え、山手線内に足を踏み入れる。
表参道にある某所で打ち合わせだったのだが、表参道駅から明治通り方向へ歩いていかねばならないのに、気がつくと青山通りを渋谷に向かって歩いていた。
GAP前で待ち合わせのはずが、青学の所にいたのである。
うーむ、相変わらずこのあたりは、気を許すと変なことになる。
いったいここでどれだけ迷えば気が済むのだろう・・・(この意味が分からない人は、以前の日記参照)。
昨日は、「文學界」の清水君がやってきて、2月のイヴェントの打ち合わせ。
1月末に発売になる阿部&中原対談集『シネマの記憶喪失』発売記念と、それに便乗したboidネタをちょっと企んでいるのだ。
うまくいくといいのだが。
夜は、野間文芸賞の発表で、清水君からの電話によって中原の野間文芸新人賞受賞を知る。
文学畑の「新人」の範疇はいったいどうなっているのだろうと思いつつも、とにかく受賞は目出度し。
多くの映画監督たち、小説家たちがこういった受賞に関して一喜一憂するのは何となくおかしな感じにも見えるかもしれないが、本人にしてみれば、「次の仕事」、そしてさらに「その次の仕事」に関わってくる、ものすごく大きな問題である。
以前、フィリップ・ガレルにインタビューした時も、とにかく映画祭で賞を取らないと次の作品にスポンサーが付かない、これは監督生命に関わる問題なのだと、大まじめに語っていた。
とにかく、中原、おめでとう。
本日は、ピクシーズのドキュメンタリー『ピクシーズ/ラウド・クァイエット・ラウド』の、地方営業をあれこれと、boidから発売になるダウザーのサントラCD『AA+』のサンプル&資料を各地に。
それぞれ、こんなビジュアルとなる。
CDは12月1日発売。
ピクシーズは来年2月3日から、バウスにて3週間限定公開。
どちらもお楽しみに。
詳細は、また追って。
11月1日(水)
昨日は、快眠マットが届く。
この間の酷い目まいを、「激しい船酔いが2週間」という風に伝えていたのだが、さらに酷い発作の時は、船酔いどころではない、ジェットコースターが頭の中を駆けめぐるという状態。
思い出すだけでも恐ろしい・・・
それが必ず、眠っている時にやってくるのである。
おかげですっかり睡眠恐怖症になり、いまだに辛い。
そんなわけで、快眠グッズをあれこれ試しているのである。
マットはかなり高価な買い物。
ためらっていたのだが、眠りには替えられない。
で試してみると、睡眠恐怖をクリアすることはさすがに出来ないが、寝付いてしまえばなるほど快眠。
起きた時の身体の疲労感がまったくない。
そんなわけで、本日は再び新宿に。
街の騒音も、先週の土曜日より気にならない。
パソコンから離れていることもいい感じで作用している。
電磁波恐るべし。
11月のどこかで、1週間くらい、電磁波のない場所に隠れようかと思う。