
|
パズルを組み立てていくみたいに作っていった
『グリーンデイル』編集者・大貫敏之インタビュー
●編集作業
編集作業は大体二、三ヶ月くらいかかりましたね。撮影自体は一週間くらいで終わったそうですが(笑)。それでも出来上がりまでは速かったと思います。やはり9.11の後で、早く世の中に出したいというのがありましたから。時間が立つとメッセージ性が薄れてしまうし。編集内容によりますが、ニール・ヤングは毎日のようにスタジオに来てましたね。11時くらいから始まって5時にはきちっと終わる。調子いいときに進めて疲れる直前でやめるって感じですね。その間の集中力はすごいものがありましたよ。締め切りも無いので、とにかく集中できるときにする、という調子です。ただ後半になってくるとマネージャーが、この映画を売りはじめるんですよ。途中までできたのをショート・ヴァージョンとしてプロモーションに使うんですね。そうやって配給先が見つかると、当然締め切りも決まるわけで、それまでだらだらとやっていた作業がいきなり加速するんです。
●曲順と構成
編集作業で最後まで決まらなかったのは曲順ですね。「devil’s sidewalk」が最初の曲になっていますが、「falling from above」「double e」など最初の順番を何回も変えているんです。初めは、「leave the driving」を頭にもってきて最初に事件を起こしてから後でどういう物語だったか分かるという方が粋なんじゃないかと考えていたんですが、それだと結局分かりにくいということになったので、最初に「falling from above」「double e」をかけて家族構成をしっかり見せてから、時間の流れに沿ってやるということに落ち着いたんです。最後の「be the rain」もアラスカにいくマップをそのまま見せて到達する形で終わらせたいとか、リハーサルが終わったあと大パーティーの部分があるんですがそのところを最初使っていたんだけど、ジム・ジャームッシュに見せたところ、「なんで作品が終わらないうちにパーティーをしなくてはいけないんだ。」という話になったのでやめたんです(笑)。
最初僕自身もどう編集していいのかわからなかったんです。ずっとつぎはぎでやっていたから、全体を把握するというのは難しかったですね。デヴィルが登場するシーンもかなり移動してるんです。パズルをしているみたいに、結局一番はまりやすい部分におさまったわけですが、つくっている方も結構混乱はしていますね。お父さんがアトリエから出ていくシーンも間違って二回入れてしまったんです。試写の時に気付いたんですが、逆にその方がおもしろいということで残していたりとか。まあ混乱はしますが、内容自体が変わるわけではないですし。
●隠された意味
彼の場合、すべて隠れた意味があるんです。「double e」という曲は元々「double
l」だったのをeに変えたんですが、eというのは、 Edes eirthと、アール・グリーンのふたつのeという意味もあります。それと「double
e」という言葉は複式機関車という意味を持っていて、ニール・ヤングは実は機関車おたくなので、もしかしたらそっちの意味も含まれているのかもしれません。歌の中でもボブ・ディランやジョン・レノンの引用をしたりだとか、「leave
the driving」は長距離バス(グレイハウンド)のコマーシャルのコピーなんですよ。それを、ホワイトハウスのシーンで使っている。アメリカ政府をグレイハウンドのバスに例えてもいるわけです。そんなふうに色々なところからコラージュして、しかもそこにさまざまな意味を重ね合わせているんです。
●グルーヴがあるかないか
ニール・ヤングって、たとえばワイドの画面にふたりの人間が映るというワンシーンを何テイクか映すとしますよね。普通なら同じアングルで撮ろうとするのに、彼は少しずつ変えているんですね。ちょっとこっちに寄ってみたりとか、全部のテイクが違うんです。
LA・ジョンソンはそこら辺の寄りすぎたりとか引きすぎたりっていうのを、技術的な面で横からアドバイスしているみたいですが、ニール・ヤングはもう彼の視線でしか見ていない。1つのシーンで15テイクくらいあると、それを全部、編集しているタイムラインの中に入れて、どれが一番いいかで決めるんですよ。一番最初に。編集者の立場としては、角度とか構図がいいのを優先するんですけど、彼は自分の視線で見て、どれが彼にとって一番うまく働いているかを優先するんです。だからちょっとちぐはぐした映像になるんだけど、彼にとってはそれがベストの状態なんです。彼の音楽のつくりかたもそうだと思うけど、完璧を要求してるんじゃなくて、グルーヴがあるかないかが重要なんです。彼のサウンド・エンジニアの仕事も同じで、たとえば暖炉の前でラジカセで録った歌が気に入って、そのときの演奏を再現するためにL.A.のスタジオに行ってもどうしても再現できなかった。そしたら最終的にラジカセの音のままリリースしたりとか。他の人は反対したのにそういう臨場感みたいなのを大切にするんですよね。
●CDと映画との音の違い
『グリーンデイル』の場合、CDの音と映画につけられた音の音源はまったく同じですね。最初にサラウンドで五個のマイクで録って、CDの場合はそれを44Kに落としているだけです。映画との違いは、ひとつはスペーシングの問題で、CDでは始まりと終わりを切ってしまっているんです。実はCDに収録された曲の前後にまだ音があるんですね。なんとなく始まっている部分とか、だらだらと続いている部分を切ってしまったのがCDで、その部分も使ったりしているのが映画の方ですね。
それぞれの音質の差異に関して言えば、映画の場合のサラウンドのミックスとステレオのCDが全然違うからだと思います。バランスもまったく変わってくるし。「bandit」の録音のときは、小さいブースがあって密閉されているところでやったので、他の曲とは違って、お風呂の中で聞くみたいに音がぐわーと反響して聞こえるんですよ。それからDVD版とCD版の音質の差異は、サンプリングの違いですよね。DVDの場合はサンプリングレートが96Kで、CDの場合は44Kで情報量が違いますから。MDとかで録ったりすると小さい音が聞こえないようになるけど、サンプリングの量がある場合は、妥協としてですが抜け落ちてしまうような音も拾うわけでもっと滑らかな音になります。MP3なんて問題外みたいですね。
●出来上がった順番
まず音楽が全部録音された後に、映画の撮影が始まりましたね。曲が出来たのは映像より先でしたが、CDが出来たのは映像より後です。先にCDをつくるという考えはなかったようです。端から映像としてつくるということを考えていたみたいだから、順番にこだわらずにバラバラにつくっていましたね。1曲ずつ独立した映像を考えていって、最後に10曲全部合わせてみて、これはちょっと変だから入れ変えようという感じですね。
「devil’s sidewalk」が一番初めに作った曲なんです。グリーンデイルにデヴィルが住んでいる、というイメージがまずあった。そうするとデヴィルが一貫して出てくるんですね。話を進めていく上で、何回も登場しないといけないので、インストルメンタルの部分に登場させたりしましたけど。
歌詞がある部分に関しては、曲が出来上がった時点でニール・ヤングの中で視覚化されたイメージがあるので映像もつくりやすいのですが、インストルメンタルの部分が問題となります。彼の頭にもまったく映像がないわけですから、そこで歌詞の中に含まれていないストーリーというのが生まれてくるんですね。だから初めに歌詞がある部分の映像だけが、それぞれのキャラクターが演じるという形で撮影されます。しかしそのまま編集をしていると、歌詞がある箇所の間にどんどん穴があいてくるじゃないですか。で、それを埋める映像、つまりインストルメンタルの部分の映像を、僕が編集をしている間にニール・ヤングは同時進行で撮影しているんですね。そして編集が終わらないうちにそれを持ってきて、ここの部分が終わったからとか、ここはフォーカス合ってないからもう一回、とか注文をつけてきます。そんなことをしていると4ヶ月後、6ヶ月後にようやくサン・グリーンのシーンがすべて撮れて映像がつながったと思ったら、ヘアスタイルがシーンごとに変わってしまっていたりするわけです。
つまり、台本としては歌詞があるんですが、そこに書かれていない部分を、まるで自分でつくったパズルを組み立てていくみたいな感じでつくっていったということです。だから俳優もプロデューサーも僕も、もしかしたら彼さえも、どういう方向に進むのかがわからない状態で、即興的につくっていったような気がします。それでも彼の頭の中にはしっかりとした意図があったのだと思います。
●究極の自主映画
究極の自主映画ですよね。本人は『グリーンデイル』が一番楽しいと言っているくらい、カメラで映像をチェックしたり役作りをしたりということをかなり楽しんでいたみたいです。これが最後にはならないんじゃないですかね。ひとつの理由として、DVDにこだわってるんですよ。ただ単純にミュージックDVDとしてつくるんじゃなくて人と違う何かをしたいという欲求があって、だからあんな風にものすごく下手に撮っちゃったりするんじゃないですかね。35oを使うという選択肢ももちろんありますけど、それよりも、自分の肩にカメラをかついで動かしながら撮りたいと思ったようで、すぐにできるDVDを選んだということです。8o特有のざらざらした映像が気に入っていて、ビデオにはしたくなかったみたいですね。
●アナログの音
ニール・ヤングがDVDにこだわるのは、やはり音質の問題ですね。ものすごいアナログおたくなんです。CDの音をアイスキューブとして捉えているんです。たとえばアナログ/レコードの音というのは顔に霧をかけるような感覚で、一方CDの音は顔にアイスキューブをぶつけるような違いだというんです。だからi Tunesとか便利になってきているけれど、「こんなものが何だ」と。いつもアルバムをリリースするときは、ヴァイナルが最初なんです。それからDVDを、CDはどっちでもいいと考えているみたいです。
最近『グレイテスト・ヒッツ』のCDが出たんですが、そのとき、レコードとDVDはどちらがいいかというテストをしたら、結果はレコードの方が全然よかった。決定的な違いは、記録された音から感じられるパフォーマンスの存在感が有るか無いかなんです。96Kの高音質のディジタルな音でもそれが無くなってしまう。たとえばギターをサステインしていって音が無くなるときに、ディジタルだと低い音がプスプスって段階になるけれど、アナログだとそれがきれいに残っているんですね。僕自身そんな感覚で音楽を聞いたことがなかったの
で、ニール・ヤングが写実絵画的な態度で音を捉えている、その態度が驚きでしたね。
ちなみに、『グレイテスト・ヒッツ』の選曲というのは、音楽ダウンロード・サイトでの人気順なんですよ。ダウンロード数が多い順に選んだんです。MP3じゃなくてDVDオーディオで聞いてくれってことなのかもしれません。
●『アー・ユー・パッショネイト』の映像
元々のアイディアは、『アー・ユー・パッショネイト』のときに遡るんです。あの時、レコーディングの様子をスタジオの中に何台もカメラを置いて撮影して、窓の部分に今回の「Inside Greendale」のような別の映像を重ねて、ひとつの映像作品を作ろうとしたんですよ。他のプロデューサーがある程度のところまで作ったんですけど、結局、「これは俺の作ったものじゃない」ってことで、やめにしてしまったんです。まあ、当然と言えば当然のことなんですけどね。
今回も、それと同じように、最初はCDのセカンド・エディションについているDVDの「Inside Greendale」のようなものを想定していて、それが出発点なんです。それで、スタジオの窓にグリーン・スクリーンを貼って、後からそこに違う映像を重ねられるようにして撮影したんです。スタジオの中にはクレイジー・ホースだけがいて、数台のカメラはそこに置きっぱなしで。でも、やはり実際にその映像に、新たな映像をはめ込んで行こうとすると、莫大な資金と時間がかかるんですね。ハリウッドではそれをやってるわけですけど、僕らがそれをやるわけには行かない。それで、どうせならストーリーすべてを作って映画にしてみよう、ということになったんですね。
映画版の編集が終わったときに、すべてが終わったと思ったんですが、その後、もう一度映像をはめ込みたいと言われたときはどうしようかと思いましたね。地獄のような作業でした。(笑)
●DVDボックスセット
今彼はアーカイブのプロジェクトをやっているんです。4つのボックスセットで発売される予定なんですよ。DVDが6つ入っていて、今その中のdisc1をつくっているところです。1963?68年の映像をまとめたものですね。前々から話はあったんですが、めんどくさいという理由で中々着手されなかった。ところがジョエル・バースタインという彼のアーカイビストが8年間フルタイムで彼の素材を管理してきたのが、最近もう耐え切れなくなってやめてしまったんです。耐え切れなくなってというか、まあ、彼の仕事は大体終わって、おそらく2000年くらいまで整理がついているんじゃないかと思います。その後は、彼がいなくても大丈夫ということで、彼はちょっと休みたいということなんだと思います。ジョエルは写真家でありレコード・コレクターでもあって、ニール・ヤングの写真とか記事とかすべて管理しているんです。ニール・ヤングが若いときにやっていたスクワイアーズというバンドのものとか、かなりコアなものまでデータベース化して管理されています。
インタラクティブなDVDですべて見れるような、あとはタイムラインに沿って時代順に見れる、構想としては『グレイテスト・ヒッツ』と同じような、その当時のテープとかプレス用のレコードとかを使って、視覚的に見せて、ただ当時は基本的に音しかないですから、映像的にはメディアをそのまま見せて、そのときの写真を載せて、それをクリックして当時の写真を検索できるような形ですね。全部完成させるには3、4年くらいはかかりそうですね。
●さらに別のプロジェクト
彼自身は既に別のプロジェクトに取り掛かっていて、今は『ヒューマン・ハイウェイ』のディレクターズカットをつくるのと、先ほど言ったアーカイブを連動してやっているんです。『ヒューマン・ハイウェイ』ですが、今度はHDでちゃんとやっていて、35oで撮っているのでかなりきれいですよ。
『ヒューマン・ハイウェイ』には夢の部分というのが出てくるんですが、そこが恐ろしく長かったので今回はその部分を編集で短くしています。
あとは、最初はステレオで録音していたのをサラウンドに変えるというのをやっています。ステレオでも、部屋の中でスピーカーで再生して5つのスピーカーでもう一度録音し直すんです。ウッドストックで使ったテクニックなんですが、これは何度もやっています。聞いた話だと、最初に今住んでいるウッドサイドの家で、引っ越した当時に撮った16oの映像があって、それをサラウンドで撮り直しているんですよ。そのときも、木の下でバンジョーを弾いているんですが、その録音がモノラルであって、そこにスピーカーを木のところに仕込んで5つのマイクをぶら下げてサラウンドで録音し直しているんです。だから最終的にサラウンドで聞いたときに、まるで実際に演奏しているように聞こえるんです。
●ニール・ヤングのメッセージ
『グリーンデイル』には、技術的に映画としてみたらつまらないところはたくさんあると思うんですね。映像として引き付ける要素もないし、物語の中に自分が入り込んでいく、そういう映画的体験はほとんど望めない。しかし、ミュージシャンの仕事として、その中に流れるメッセージという形ではとてもおもしろいと思います。
コンサートのときに「WE SUPPORT WAR」っていうビルボードを背景に出しているんですね。それだとまるでニール・ヤングが戦争をサポートしているようにも見れるし、皮肉として観客がサポートしているんだ、という風にも見れる。そこで観客は、ブーイングする人と冷静に観察する人とふたつにわかれるんですよ。もちろんヤバイ言葉なんですけど。そのリアクションがおもしろいなって。
アメリカのビルボードの広告ってクリアチャンネルというところがコントロールしていて、ラジオ局の80%くらいもその会社が持っているんです。ということはミュージシャンにとって、クリアチャンネルとどう付き合うかで、ラジオにのってメディアにのることで自分をアピールできるかどうかが決まるんですね。裏話によると、クリアチャンネルにベネフィットのためにやるコンサートがあって、そこにただで出演するとラジオにのせてくれるし拒否するとのせてくれないというのがあるらしいんです。ただで出演することで生まれた利益を、どうもクリアチャンネルが吸い上げているとか。そうやって、クリアチャンネルが音楽業界をコントロールしてるんですね。彼はそのことに対してとても批判的で、だからそのボードに小さくクリアチャンネルのマークがついてるんです。そういう隠れたメッセージみたいなものをぶつけてくる人なんですよね。
あと彼が普段から乗っているハンマーがあるんですが、これってディーゼルで動くんですね。しかもヴェジタブル・オイルで走るんです。それは彼が関わっている環境保全運動の一貫で、ハンマーの横に「SAVE THE AIRTH」って書いていたりする。自分で宣伝しながら走っているわけです。彼はかなりポリティカルな人間ですよ。
●インディペンデント
彼は『グリーンデイル』で、自費でやるのがいいと気付いたんですね。そうすれば誰にも邪魔されないですから。ビン・ラディンの写真をいれたときも、政治家の顔をいれたときも疑問というのはあったけれど、アートとして考えたときに、何をやってもいいんだと気付いたんですね。今までは他のレコード・レーヴェルに頼っていたからこういった作品はつくれなかったわけです。彼の場合やりたいと思ったら本当に実現しちゃうんですよ。『グリーンデイル』のライヴをブロードウェイのスタイルでやろうと決めたのも、娘の高校の学園祭か何かの劇を見て、「こういう素人のものもいい」と考え付いたそうです。
●映画の枠の外へ
映画の最後の「be the rain」は、コンサートのリハーサル風景なんですね。本番がコンサートで実現している。だから、映画だけという枠ではなくて、その後実際にそのグループがコンサートを行うことで、物語が完成する。サンフランシスコでは映画のメンバーそのままで、ライヴをやったんです。他の場所では現地でスカウトしたりしたんですが。それが実現してそういう形でもう一回やっているという展開の仕方がおもしろいな、と思いますね。虚構の世界から現実の世界にいってしまうわけですから。そういう境目のない感じが映画全体に流れていると思います。
インタビュー、構成:樋口泰人、原田徹、月永理絵
|
|
     |
|