
月刊! 中原昌也! (『スタジオ ボイス』連載第一回)
Hair Stylistics a.k.a. 中原昌也 TOP
新連載!
ゲッカン! 中原昌也!
この連載は12ヶ月連続リリースを企て、かつての怠惰ぶりが反転したような猪突猛進をみせる中原昌也さん=ヘア・スタイリスティックスに気鋭のライター諸子が鋭く切りこむ音楽批評のリーサル・ウェポンである。
記念すべき第一作『ポップ・ボッタクリ』の極限まで重層化された音世界のナゾを解き明かすべく立ち上がったのは三田格さん。そこに集うひとの誰もが思い出にふける思い出横町の焼き鳥屋の二階に、ノイズ/オルタナティヴの現在を問う議論がゆらゆらとたなびくのだった。
驚け。誰かにいわれて仕方なくやっている…わけではない。中原昌也が自ら12ヶ月連続アルバム・リリースというアイディアを持ちかけ、ボイドが受けて立ったのである。理由は簡単。「もう小説が書きたくないから」。
——でも、だったら別に音楽じゃなくてもよかったじゃない。
「そうですけど、まー、楽だし…楽じゃないけど、バカしか聴かないし」
——なんだそれ。つーか、日本における文学と音楽が置かれている位置の問題なんでしょ?
「そう、そう。小説なんか書いて権威面しやがっていわれるのがイヤで。実際、いわれたし」
——映画は? この間の短編映画、センスがあってよかったし。
「あれは封印した」
——また、それは勿体ない。ちなみに12作、全部揃えるとなんか特典があるの?
「多分、あると思いますよ。でも、まだ何も考えてない」
考えた結果が10年後のライヴ・チケットではないことを祈るばかりだけど(©秋元康)、それにしてもいいタイミングではないだろうか。おそらくダフト・パンクや「抱いてホールド・オン・ミー」から10年も続いた記号的な音楽の時代がいい加減、幕引きを迎え、抽象表現への欲望が復活してきた時期だと僕は考えていたからである。
「確かに一時期は場違いな感じだったけど、いまは勝手にやってもいいんだと思えるようになった。ダフト・パンクとかモーニング娘。のことなんて、まったくわからないし…」(といってモー娘。に関する知識を披露しようとするが、なんの話か誰にもわからなかった)
そして、3日で仕上げたという『ポップ・ボッタクリ』がまずは連続リリースのトップを飾る。
——なに、このタイトル? ボアダムズにケンカを売ってる?
「そんなことしないですよ(笑)。なんか、あったなあと思って。ボアダムズは不思議な距離感にいて、真面目に聴いたことがなくて」
ボアダムズというよりは、もちろん、スロッビング・グリッスルの未発表曲を並べたような…といって話を安直に終わらせたいところなんだけど(なんで?)、実際にはあれほど思わせぶりでもなく、本人が「古いものよりも新しいノイズを聴きたいし…」という通り、DJカルチャーがもたらした大きな課題であるグルーヴについては、どのようなカタチであれ、それと取り組む意識があることも感じさせる(結果を出しているノイズ系も最近は増えてきた)。あるいは、80Sのノイズ・インダストリアルが突き詰めていた美意識をあっけなく相対化させてしまうような効果音が飛び散らかり、かつてアレク・エンパイアが「西洋のノイズ表現は政治的な固定観念のなかに閉じ込められていたが、暴力温泉芸者がその呪縛から解放してくれた」と述懐していたように、TGに憧れているからといって、そこに埋没しようとするわけでもない。
「TGみたいにやりたいですよ。でも、あそこまでシアリスに同化することができない。暗くなりたいのにできないんですよ。いまだにナゾなんですけど」
それは、まー、キリスト教の問題だろう。神に反抗して性転換まで行くという事態はやはり音楽表現の領域をあまりにも逸脱している。
「TGはクラスターだと思う」「ニール・ヒルはどんな人物だったのか」「ミニマルには抵抗していたんだけど、ヴィラロボスを聴いて気が変わった」「音楽に時間をかけちゃいけない」など、中原の話は例によって焼き鳥のタレのように飛び散り切った。あるいは、その時、階下で呑んでいたジム・オルークと「スイサイダル・10cc」というグループを結成して、サーストン・ムーアのレーベルからカセットを出すことも決まっているのだとか。
『ポップ・ボッタクリ』は、12連作の入り口として最適のショーケース・アルバムになるだろう。トボけていてヒプノティックで、シャープな切れ味を併せ持つハイブリッド・ノイズが過不足なく飢えた耳に飛び混んでいる。しかし、僕は参考までにといって聴かせてもらった2作目の『グラシア・ア・ラ・ヴィヴァ』を聴いて、むしろ、そっちに打ちのめされてしまった…(気が早くてすいません)。
インタヴュー・文=三田格
*******************************
Monthly HAIR STYLISTICS Vol.1『POP BOTTAKURI』
中原昌也『中原昌也作業日誌 2004→2007』(ともにBoid)
一年連続リリースの第一作目はノイズとサイケとオルタとヒップホップの間のグレーゾーンをさらにグレーに塗り込めた計5曲を収録! 「Music From The Band」「Riot EL & P」…いつも通り冴え渡ったネーミングセンスにもご留意いただきたい。『ニートピア2010』『映画の頭脳破壊』(ともに文藝春秋)につづく今年三冊目の著作『作業日誌』で中原昌也の生活習慣をなぞりつつ、音楽が生まれる瞬間を夢想するのも作品理解の一助となる…はず…
【今月の中原語録】
よその雑誌ではちゃんと「ピアノ特集」とかやってるときに「オルタナティヴ」とか言ってのんきなもんだよ