
月刊! 中原昌也! (『スタジオ ボイス』連載第二回)
Hair Stylistics a.k.a. 中原昌也 TOP
連載第二回
月刊! 中原昌也!
この連載は12ヶ月連続リリースを企て、かつての怠惰ぶりが反転したような猪突猛進をみせる中原昌也さん=ヘア・スタイリスティックスに気鋭のライター諸子が鋭く切りこむ彼岸の音楽批評である。
12作連続リリースの第二弾『グラシア・ア・ラ・ヴィヴァ』は1作目『ポップ・ボッタクリ』と同時期にマスタリングされたものの、40分を超える長尺曲を含むアブストラクな一枚に挑むのは数少ない若手論客の俊英、磯部涼さん。そこに集うひとの誰もが思い出にふける思い出横町の焼き鳥屋の一階隅に、2008年のいま、ノイズをどう捉えるか、激論がずるずるとわだかまるのだった。
中原 僕はウーロン茶を。先週、毎晩呑んじゃったんで。
――3作目は出来ました?
中原 まだ何もやっていない。
――えっ! 何だ、創作意欲に満ち溢れてるのかと思ったのに。
中原 全然そんなことないよ!
――毎月締め切りがあったら、音楽も小説みたいに嫌になっちゃうんじゃないですか?
中原 そうなのかも……。そもそも、何でこんなこと始めようと思ったんだっけな。そう、出来たそばから、パパパっと出したいというのがあったんだよね。いま、つくりこまないことが重要かなって。
――ほう。
中原 何か、こうさ、目の前にステレオがあって、ひとりの人物が両手で出来るような音が聴きたいわけですよ。
――人間を感じたいみたいな?
中原 いや、例えば、ダブとか、マルチ・トラックをライヴでいじってるわけじゃない。そういうのが面白いなぁと思って。
――ヴィラロボスもそういうやり方らしいですよ。
中原 そうそう、そこがいいんだよ。でも、そうやってライヴでやるとなるとまた山のようにエフェクターを買わなくちゃいけなくなって、さらに貧乏になっていくんだけど。
――ははは。
中原 コンピューター・ベースの制作を否定するわけじゃないんだけど、つくりこみに向かうのが嫌で。最近はテクノを聴き直してる。やっぱり、初期はシンプルで面白い。
この後、「プラスティックマンは良いけど、エイフェックス・ツインはよく分からない」など、初期テクノについての話が続くが……割愛。
――“Gracia A La Viva”はべーチャンみたいにグルーヴィーでびっくりしました。
中原 そう? 昔はループとか、ただ怠けているように思えて腹立たしかったんだけど。スタジオでこのループが鳴っている間、そこにいるやつは何もしてないのに、何でそれにお金を払わなきゃいけないんだよ! その分、安くしろよ! って。
――なはは。
中原 でも、まぁ、ヴィラロボスを聴いたあとでは、あそこまで怠惰だともうどうでもいいかなって。現代音楽のミニマルは相変わらず好きになれないんだけど。
――あれはむしろ怠惰の逆でしょう。生でやらなきゃいけないんだもん。
中原 あんなの工場で働くのと同じだよ!
――ライヒは楽だけど、18人の音楽家は大変ですよね……。
中原 労働だよ、労働! とはいえ、世代的にノイズとかインダストリアルのひとがダンス・ミュージックに接近した時の散々な結果を知っているから、そうならないように気をつけてはいる……。
この後、「エイドリアン・シャーウッドはダサいから嫌いだけど、ミート・ビート・マニフェストはダサいから好き」など、ロックとダンス・ミュージックのクロスオーヴァーへの愛憎についての話が続くが……割愛。
――最近の音楽で面白いのは?
中原 相変わらずヴィラロボスは好きかな。新しい12インチのマグマをサンプリングしてるやつも良かった。あと、アメリカのノイズは良いよ。怠惰で。
――怠惰、好きですね。勤勉はダメ?
中原 そういうわけじゃないんだけど、とにかく、つくりこんであるものが嫌い。
――それは何なんだろう?
中原 あー、そうか、こういうことなんだよ。つくりこまないということ、ライヴでやるということは、つまり、その作業に没頭しているということで、そこで自我は消滅している。だけど、それを聴き直してそこに音を重ねていく作業は自我があるから面白くない。
――自我の消失というか、自我の嫌悪は、中原さんの作品のテーマのひとつですよね。
中原 そうかねぇ。自我もなしにつくり続けていくことの難しさも痛感してるけどね。でも、みんな、そればっかじゃん、表現者って。自我、自我って。あれはヤダ。……そろそろビール頼もうかな。
この後、この日のクライマックスが来るが……自我が出てしまったので割愛。
インタヴュー・文=磯部涼
*******************************
Monthly HAIR STYLISTICS Vol.2『Gracia A La Viva』(Boid)
チリのSSW、ビオレータ・パラの「Gracias A La Vida(人生よありがとう)」をもじった(?)第二弾は「Intro」につづき、ドローン・アンビエンスが接触不良ノイズに40分かけてメタモルフォーゼする「Gracia A La Viva」、「El Condom Pasa(コンドームは飛んで行く?)」から成る南米色濃厚(?)な一枚。TG、〈COME ORG〉系のインダストリアルをポップに解釈しグルーヴを加味した都合50分の音のつづれ織りと言えるかどうか、ご自身の耳でお確かめください。
【今月の中原語録】
「狂うクルー」と「1☆狂」は全然違う! 別物!