
月刊! 中原昌也! (『スタジオ ボイス』連載第三回)
Hair Stylistics a.k.a. 中原昌也 TOP
連載第三回
月刊! 中原昌也!
この連載は12ヶ月連続リリースを企て、かつての怠惰ぶりが反転したような猪突猛進をみせる中原昌也さん=ヘア・スタイリスティックスに気鋭のライター諸子が鋭く切りこむアルティメット音楽バトルです。
12ヶ月連続リリースもすでに第三弾。どうやってヴァリエイションをすんだ?とリスナー諸兄の多くが抱かれた懸念を氷解させるファットかつディープな『ハード・メルヒェン』を解析するのはおなじみ湯浅学さん。マンヘア(“Monthly Hair Stylistics”の略)の好評を聞きつけ、企画されたタワーレコード渋谷店の7階に集うひとたちの胸を高鳴らせた激論から、ピークタイムを切り出します。
文章を書くのがいやだから、音楽に専念する、という至極まっとうな動機による活動を進める中原昌也の月刊CDも遅延なく世に送り続けられているのも中原の周囲の煩わしいことを取り除く制作スタッフの努力の賜物と思うのだが、それもこれも中原昌也という存在のわだかまった才気が、人を誑かすからではなく、他人には大きな声ではいいにくいが実はわたし中原昌也の音楽がすきなんです、とこっそり思わせる誘惑の魅音あるいは人の心(動物という場合も可)のどこかしらを射たり柔らかくしたり硬直させたりする妙音を提供しているからであって、決して珍獣に餌をやりたがる者たちの好奇心を刺激した結果ではない。珍獣好き自体がたいしたものではないからである。むしろラモン・テ・ヤングやポーリン・オリベロスが好きでヘア・スタイリスティックスを聴くようになりました、という若者たちこそ増加傾向にあるのが、ポスト・サブプライム・ローン世界の現状である。
「(毎月こうして作品を作っていけば)何かが上達したりするのかな、ということは思いました。たとえばリー・ペリーのダブはどこで修練されたのだろう、と。誰かに作法を学んだように見えないけど、勝手にやっていたにしても修練はしているはずですから。夢としてはものすごい無機質な感じのミニマルっぽい音楽から段々音が加わって最終的にはオーケストラをバックにマイク一本とか。カニエ・ウエストとロンドン交響楽団がいっしょにやっているような。そういう風になるといいんだけど。自分ではまじめにやっているけど、どこで変わるんだろう? と懐疑的です! いきなり絶対音感が身につくとか、そういう展開があるじゃないかと、思っているんです。これで何かが変わるはずなんです!」
日常が投影されているようで、そのような寄りかかりはない。日々の刻一刻が創造のために費やされる。だからといってそれがドラマティックなわけではない。営みである。しかしつれづれなる雑記帳ではない。作品に対する心がまえはあくまでも創造のためのものである。音と向き合う視座に弛緩はない。中原昌也は音楽に貪欲かつ謙虚である(『新潮』を参照のこと)。
「昔は実家で何も考えずにギャーってやってましたから。部屋で本当に絶叫していましたからね。今はそこまではしないんですけど、部屋の扉に“うるさいです”って張り紙されているんですよ。それに対抗するためにいまでも紙張りっぱなしですよ。その紙の上に“YEAH!!!”とか書いて、なんとも思ってねぜってアピールしてるんですよ」
音の定位は10数年前の作品のほうがしっかりしていたように思う。音楽の基本が変わったわけではないが。しかしコンセプトは違う。
「前にテープ作品に連作先を書いておいたら訳のわからないヤツがいっぱい家に来ましたよ。失敗でした。訳のわからないテープが送られてきたり。清酒大関のコマーシャルにディストーションがかかっているだけのヤツとか。僕は“こういうのやっているイメージなんだなあ”と思いましたよ」
こうしたいというイメージをまったく持たずに音楽が生み出せたらいい。コンセプトも一切なしに、ただ演奏するだけ、ということの困難に立ち向かえるか。
「人が書いた歌詞に音をつけて歌うのはどうでしょうか。お誕生日おめでとうみたいなのを。でも人呼んで一緒にやったりするのはやめたんです。もっと音楽性で勝負したいから」
より音楽的になることを望んでいるではなく、そうなることもあるかもしれぬ、という覚悟を持つというものだろう。音とたわむれるのではなく、意味を求めるのでもなく、文脈を表明するのでもなく、理論を開陳するのでもない。ただ演奏すること。誰のためにでもなく。自分のためでさえない、かもしれぬ。でもやるんだよ、の果てを聴かせて欲しい。
インタヴュー・文=湯浅学
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長尺曲で音響の強度の持続性を試した前作『Gracia A La Viva』から、3作目の『Hard Marchen』では音の隙間、リズム実験へ重心が移行。空間から音が自律的に増殖するような呪術性をもつ冒頭の「Unfinished Untitled」、ヒップホップのループ感が瓦解してダブにリンクされる「Hard Marchen」、ハードかつミニマルな「No Fender Rhodes」「They Want Big Beat」、冒頭と響き合うエクスペリメンタル・グルーヴ・チューン「Anal Collective」…と構成もパーフェクトだ。
【今月の中原語録】
プリンス・バスターとブラスロックを融合させたスカ・シカゴというバンドを作るべきです!