
ロバート・アルトマン特集 リポート1 安田和高
考えてみると「ぴあフィルムフェスティバル」に行くのは2001年以来6年ぶりである。2001年というと、まだ東京に出て来るまえだ。扇町ミュージアムスクエアで石井輝男のトークがあった。
いまではもう扇町ミュージアムスクエアもつぶれ、石井輝男も亡くなってしまった。
ずいぶん「ぴあフィルムフェスティバル」とご無沙汰だったわけだ。
しかしご無沙汰といえば'70年代、'80年代のロバート・アルトマンである。
もちろん『ショート・カッツ』ではじめてアルトマンをリアルタイムで観た世代が「ご無沙汰」なんて口にするのはおかしいけれど、'70年代、'80年代のアルトマン作品が引き合いにだされるたびに、「ああ観たい。観たい」とずっと焦れていたのだ。
なにせ『ナッシュビル』を観たことがないのである。だいたいアルトマンの新作が公開されるたびに、『ナッシュビル』を観ていない、ということを否が応でも思い出させられる身にもなってほしいものだ。
と、まあ今さらこんな不実を訴えたってしょうがない。
なにはともあれロバート・アルトマン特集である。
7.14. sat
19:15~
『ナッシュビル』の上映である。
が、この日は21:30~『ハート・オブ・ゴールド』の爆音上映がある。
『ナッシュビル』を観れば、ぜったいに間に合わない。しかも東京に台風が近づいている、と言う。まさにニール・ヤング日和。ライク・ア・ハリケーンである。そもそも『ハート・オブ・ゴールド』だってナッシュビルって言やあナッシュビルである。
しかたあるまい。
雨が降るなか「ハート・オブ・ゴールド公開祈願Tシャツ」を洗濯し、こんな天気じゃ乾きゃしないのでアイロンをかけ、まだすこし湿気ったままのTシャツをむりやり着て、バウスに向かう。
『ナッシュビル』は27日までおあずけ。
ただその代わり(というもアレだが)バウスで上映されるうちの1本は『今宵、フィッツジェラルド劇場で』。PFFとは関係ないが、アルトマンの遺作を爆音で観ることができた。
両作をつづけて観ると、いまにも『今宵、フィッツジェラルド劇場で』にニール・ヤングが混じって歌いだすかのような、あるいはまるで『ハート・オブ・ゴールド』のバックコーラスに「白いトレンチコートの女」がいたかのような気にさせられる。
このような――ニール・ヤングや、白いトレンチコートの女や、バックコーラスの――視線は、いまの「美しい国」日本から急速に排除されつつある。宮沢章夫であれば、排除されつつあるそれらを「ノイズ」と呼ぶだろう。
ここはやはり「ノイズ」を「爆音」で、やるしかないでしょう。ナッシュビルの名にかけて。
7.16 mon
きょうは丸一日アルトマン。
9:30ごろ家を出て、渋谷へ。会場の渋谷東急には10:00すぎに着いたのだが、もう列ができている。さすがアルトマンというべきか、さすがシネフィルというべきか。
11:00~『ウエディング』

それぞれの登場人物がそれなりにのっぴきならない何らかの事情を抱えて一堂に会するのだが、そこで生じるひとつひとつのエピソードは、かなり淡淡と描かれる、というよりほとんど無造作にゴロリところがっているだけだ。なかなか収斂していかない。それらを統括できたかもしれないリリアン・ギッシュはすでに亡くなっている。しかしじつに豊かで魅力的なカオスが展開される。
けっきょくは「めでたし、めでたし」と言えなくもない結末を迎えるのだが、リリアン・ギッシュの死で幕を開けた映画は、ふたりの若者の死ぐらいでは幕を引くことができない。
パーティが終わって、ようやく映画はとりあえずの終わりを迎える。
14:00~『ギャンブラー』

本来はシネスコらしいのだが、フィルムがないとのことで、残念ながらスタンダード/トリミング版での上映。
レナード・コーエンの「The Stranger Song」が流れてきた時点で、もうハッピーエンドではありえないことが予想され、哀しくなる。
なぜかしきりとウォーレン・ベイティ(マッケイブ)とジュリー・クリスティ(ミラー)のふたりが『ケーブル・ホーグのバラード』のジェイソン・ロバーズ(ホーグ)とステラ・スティーヴンス(ヒルディ)と重なって見えた。どちらのカップルがより幸福だったのか。少なくともホーグは独りきりで死んだりしなかったが……
降りしきる雪がW・ベイティの姿を覆っていく。
16:45~『ボウイ&キーチ』

いったいキース・キャラダイン(ボウイ)は、弱いのか、強いのか。いかにも頼りないが、平然と刑務所からジョン・シャックを救い出してしまったりする。リーダー格のバート・レムゼンでもなく、殺人を厭わないジョン・シャックでもなく、悪人に徹することのできないキース・キャラダインは、たぶんわれわれなのだ。
だからラストは『俺たちに明日はない』より、ずっと切なく悲痛なものとなる。ひとりは生き残らされ、ひとりは泥に(美しかった『ギャンブラー』の雪でもなく)捨て置かれる。もう誰もカッコよくなんか死ねない。
19:30~『BIRD★SHT』

たぶんアルトマンは「かいけつゾロリ」なのだ、と言ってみる。つまり「まじめにふまじめ」なのだ。それを「韜晦」と言い換えてもいいが、それにしてはアルトマンのふるまいはどこか幼い。やはり「韜晦」よりは「まじめにふまじめ」のほうがしっくりくるような気がする。
寓話を、さらにメタ・フィクショナルに脱構築したうえで、そこを舞台に嬉嬉として「ふまじめ」にふるまう。
評価は別として、すごく幸福な映画である、と思う。
どうやらアルトマンが「最も愛する」と公言した作品ということだが、それもなるほどうなずける。
というわけで、4本をほとんど立て続けに観る。
丸一日を劇場で過ごしたため、まったく中越沖地震のことを知らずにいた(そういう人はほかにもいたのではなかろうか)が、しかし奇しくもアルトマンの上映前に地震が起こったというのは、なんとも……
いや、まあ関係ないか。